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本を熱いうちに読む

厚みのある本は苦手

レイニーブレイン『脳科学は人格を変えられるか?』

本日の一冊は「脳科学は人格を変えられるか?

 前々回の記事では「アフェクティブ・マインドセット」、前回の記事では「サニーブレイン」について紹介した。今回は「レイニーブレイン」についてまとめておく。

目次

二つの道

 レイニーブレインで重要となるのは恐怖回路だ。この恐怖の回路の中心にあるのが扁桃体で心理学者ジョセフ・ルドゥーはラットを用いた実験によって、五感から扁桃体へ行くには2つの道があることを発見した。

ルドゥーは速いほうの道を<低位の経路>もしくは<泥だらけの近道>、もう片方の道を<高位の経路>もしくは<ゆったりした<幹線道路>と呼ぶ。

 二つの道の使い分けはこうだ。危険が目の前にあるときは近道である「低位の経路」から扁桃体へ情報を送る。これは少しの遅れも許されない危機的状況にある場合だろう。本書では、路上でヘビと出くわした時などと表現している。対して「高位の経路」は情報を分析する。遠くに見えるヘビのような物体が、本当にヘビなのか、それとも木の枝なのかを見定めるときに使うのである。レイニーブレインの本当の役割はネガティブになることではなく、生き残るために必要な恐怖、そしてその恐怖に対する警報にある。しかし、この恐怖・警報が強くなると人は悲観的になるという。

レイニーブレインには、大脳皮質と皮質下を結ぶ無数の回路が潜んでいる。警報の役割を果たす回路が必要以上に強くなり、抑制の中枢のはたらきが弱まると、人は総じて悲観的な思考形式へと押しやられ、ものごとを悪いほうへ悪いほうへと考えるようになる。こうしてネガティブな思考が徐々に出現し、良い面よりも悪い面に目が行くようなバイアスが確立されていく。

 人は誰しも恐怖感情を持ち合わせている。恐ろしい写真を見れば注意を引き付けられるのは当たり前だ。しかし、ネガティブな人はそんなに恐ろしくもない写真にも注意を引き付けられてしまうのが問題という。一つの実験を紹介しよう。

恐怖への下限

 カリン・モッグとブレンダン・ブラッドレイの二人の心理学者は切断された肉体や殺人事件の被害者など強い恐怖をかきたてる写真から、銃をもった兵士の姿といったそれほど怖くない写真を用意した。これらの写真を事前に人々に見せて「非常に恐ろしい」「やや恐ろしい」「中立的」の3つに分類した。そして、被験者に注意プローブ課題という実験を行った。注意プローブ課題は以下のような実験だ。

 被験者の前に置かれたコンピュータの画面に、楽しげな写真と嫌な感じの写真。もしくは中立的な写真をペアにして左右に映し出し、どちらがより被験者の注意をとらえるかを調べるものだ。一対の写真ーたとえば歯をむき出して唸っている犬の写真と、愛くるしい子犬の写真ーは画面にうかんですぐ、たいていは1秒の半分もしないうちに消え、そのあと画面の左右どちらかに小さな三角形(プローブ)があらわれる。その三角形を見つけたら、手元のボタンをできるだけ急いで押すように被験者は指示される。ボタンを押すまでにかかった時間はコンピュータに記録される。

 心に強く訴える画像や注意を引く画像があった場所に三角形があらわれれば、人はそれをより素早く探知できることがわかっている。この特性を利用すれば、被験者の認識がどんなふうに偏っているか、計測することができる。

  話を戻そう。「非常に恐ろしい」「やや恐ろしい」「中立的」な写真を用いてこの実験を行ったところ、非常に恐ろしい写真にはすべての被験者が注意を引き付けられたとある。これは当たり前の現象だろう。しかし問題は恐怖度が高くない写真にも注意が向いた人がいることだ。それが特性不安度が高い人たちだった。このことからわかるのはこうだ。

要するに、問題は下限なのだ。大きな危険にはだれもが反応する。だが、特性不安度が高い人はふつうの人に比べ、警戒モードに切り替わる下限が低いわけだ。このように小さな危機にも反応しやすい敏感なレイニーブレインをもつ人は、危険を過剰に認識し、その結果、「世界は危険に満ちている」という見方に拍車をかけてしまいがちだ。

 ネガティブな人はふつうの人が気にならない出来事にも恐怖が潜んでいるのではないかと考えてしまうのである。実際には起きないような心配事も考えてしまって、それが当たり前の考え方になっていく。そうやって不安が増していき、不安障害といった病気へとなってしまうのだ。

感情のコントロール

 この不安をどうにかするには感情のコントロールが必要不可欠だ。

感情をコントロールするには、自分がものごとをどう解釈しているか認識し直すだけでも効果がある。(中略)たとえば、憂うつな気分でいっぱいになっているとき、「事態はそれほどひどくはないかもしれない」と自分で自分に語りかければ、それだけで、暗い気分を切り替えられる可能性があるのだ。この方法は単に不安をやわらげるだけでなく、レイニーブレインを形成する脳の回路を変化させることさえできる。

 この感情のコントロールについて次のような実験がある。まず被験者に脳スキャナーに横になってもらう。そして、彼らに血にまみれた腕など衝撃的な映像を見せる。画面に「注目」と文字が出たときは、その場面に感情移入するよう指示し、「再評価」という文字が出たときは、その場面から受ける感情がネガティブにならないよう自分の感情をコントロールするよう指示した。例えば「あの腕は偽物で作り物だ」といったふうに。この実験の結果は明白だった。

両者で顕著なちがいが浮き彫りになった。「注目」の指示を受け、感情的な側面に注意が集中しているときは扁桃体が活発化し、いっぽう「再評価」の指示を受けたときには前頭前野が活性化し、扁桃体の活動は弱まっていたのだ。

 つまりネガティブなものごとに注意を引き付けられても、問題はないと自分の感情をコントロールすることを意識すれば、人は必要以上に恐怖に支配されないですむということだ。

暴露療法

 また、恐怖を治す方法の一つとして暴露療法と呼ばれるものがある。

恐怖の条件づけを動物で実験した結果から生まれたのが、<暴露療法>という手法だ。この方法は、クモ恐怖症をはじめとする特定の何かへの恐怖心を克服するうえで、非常に高い効果をもつ。恐怖の記憶といかに対峙し、いかにそれをしずめえるかを教えるのが、この療法のポイントだ。何かの恐怖症の人は、恐怖の対象にぜったいに近寄ろうとしないせいで、「近づいてもひどいことにはならない」と理解することができずにいる。こうした人を恐怖の対象にあえて何度も対峙させるのは、恐怖心を消すうえで非常に有効な手法だ。

  つまり、恐怖の対象、ここではクモを例えにしているがクモと何回も対峙することによってクモへと恐怖を克服することができるというのである。

 まあ暴露療法は一人で行うには少し無理があると思うので、感情をコントロールする方法を覚えておく方がよいだろう。

ポジティブネガティブの黄金比

 引用で記事が長くなってきているが、まとめに入っていこう。幸福になる方法として心理学者のバーバラ・フレドリクソンは日々の生活にポジティブなことを見つけることを提唱している。

彼女が発見したのが、ポジティブ三:ネガティブ一という黄金の比率だ。

  ネガティブな気持ちを一つ感じたら、ポジティブな気持ちを三つ感じるべきだということだ。ネガティブな気持ちをどうしても排除できない時もある。そんな時はネガティブな気持ちを消そうとするのではなく、ポジティブな気持ちを感じることをしようということ。たいていの人はポジティブ二:ネガティブ一の比率で感情を体験しているらしい。これでは足りない。ポジティブな気持ちをさらに一つ感じることができれば、人生はさらにより良いものになるという。

 さて、3つの記事にわけて書いてきたけど、ほかにもある特定の遺伝子がある人は周囲の飲酒習慣に流されやすい話や、セロトニン運搬遺伝子の型の話、ランダムなのに恐怖の写真と電気ショックに関連があると思ってしまう話だったりと、気になる話題はたくさんありますが、全部書いてるとそれこそ本まるごとになってしまうのでここらへんで終わりです。

 ここ最近読んだ本の中でどのページも有意義な内容の本で、素晴らしかったです。

 おしまゐ。

前々回の記事

arigatoubook.hatenablog.com

本日紹介した本

脳科学は人格を変えられるか?

脳科学は人格を変えられるか?