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言語化すると忘れる脳とマルチタスクの話 『脳はなぜ都合よく記憶するのか』

本日の一冊は「脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議

 3度目の紹介。最初の記事では幼児期の記憶と記憶できることについて、2つ目の記事では記憶力がすごい人たちを紹介しました。今回は本書の中から、言語化と記憶についてと、マルチタスクと脳について紹介する。

目次

言葉にすると記憶を失う

 まずはある研究を紹介しよう。1990年にピッツバーグ大学のスクーラーが発表したものだ。

被験者に30秒にわたる銀行強盗の映像を見せた。それから、20分間、無関係な作業をさせたあと、被験者の半数には5分かけて銀行強盗の顔の描写を言葉で書き留めさせ、残りの半数には国名と首都を答える作業をさせた。その後、被験者全員に、強盗を含めた8名の顔写真を並べて見せた。研究者によれば、その8名は「言葉による説明が似ている」人たちだ。すなわち、「金髪、緑の目、中くらいの鼻、小さな耳、薄い唇」など、言葉による描写が同じだった。

 この研究の重要なポイントは銀行強盗の顔の描写を言葉で書き留めることによって、その後に見た顔写真の中から銀行強盗を見つけ出すことができるかどうかだ。普通に考えれば、言語化をすることは補足にあたるから、銀行強盗の顔をより覚えることができるのではないかと思う。しかし、実際はそうはならなかった。

強盗の顔の描写を言葉で書き留めた人は、書き留めなかった人より、並べた顔写真から正しい人物を見分ける確率が著しく低いことだった。(中略)被験者は、言葉にしやすい部分のみ繰り返すことで、元の視覚的記憶の微細な部分を軽んじているうちにアクセスしづらくなったのだ。

 これはつまり、あるものを記憶しようとした時、言葉で表現することによってそのものの細かいところを思い出すことができなくなるということだ。この結果だけを見ると覚えるためには言葉にしないほうが覚えやすいということになる。しかし、それもまた違う。どうやら言語化が良い時と悪い時があるみたいだ。

色、味、音楽を描写してみよう。その記憶が損なわれる。地図、決断、情緒的判断を描写してみよう。当初の細かい部分を思い出すのがむずかしくなる。人から何かを説明される場合も同じことが言える。

(中略)

だからといって、言語化は「必ずしも」悪い考えではない。スクーラーの研究は、言語化が記憶を損なわない、むしろ高める可能性があることも示している。それは、単語リスト、話の内容、事実など、元々言葉で表されていた情報の場合だ。

 もともと言葉の情報を言語化したところで、その表現方法は変わらないわけだから、記憶がより保持されるだろう。しかし、言葉で表現されていないものを言語化してしまうことは、その詳細を忘れてしまう恐れがあることを知っておいた方がいい。

https://www.pakutaso.com/shared/img/thumb/PAK85_kiirioicup20140329_TP_V.jpg

 例えば、上の写真を見てみよう。この写真のタイトルは「黄色いコップ」だ。この黄色いコップがよかったと言葉だけ伝えただけでは、相手はどんな黄色かは分からない。もしかしたら鮮やかな黄色を思い浮かべるかもしれない。また、この写真を見た後に、この前見た黄色いコップが可愛かったと伝えた時、自分の脳の中にある黄色いコップの黄色は上の写真よりもっと鮮やかな黄色になっているかもしれない。

 だからといって、言語化せずには相手に伝えることはできない。非言語的なことを言語化すると記憶に間違いが起こることを知ることが大切だ。

マルチタスク

 一度に複数の物事を同時にこなせれば時間短縮になるのに、といつも思うのだが、人間の能力には限度が存在し、また、マルチタスクは人間には無理なようだ。MITの神経科学者アール・ミラーは「人はマルチタスクが得意ではない。できると言うのは思い違いだ」と言っている。

マルチタスクをしていると思っていても、実はあるタスクから別のタスクへと素早く切り替えているだけ。そして、切り替えるたびに認知コストがかかる」

 つまり、自分の中で同時にこなして早く仕上げていると思っていても、脳に負荷をかけているだけでマルチタスクをしているわけではないということ。脳に負荷をかける分、早く終わることもあるだろうが、脳に負荷がかかっているのだから疲労は早まるだろう。この、あるタスクから別のタスクへと素早く切り替える行為はタスクスイッチと呼ばれる。タスクスイッチは生産性や集中力に害を及ぼし、ミスを起こしやすくすることがわかっている。マルチタスクをするのはやめたほうがいいようだ。

 以上、3記事にわたり脳はなぜ都合よく記憶するのか」を見てきた。少しでも、記憶と脳について興味を持っていただければ幸いだ。記憶は間違いを起こす。それを知ることによって私たちは記憶とうまく付き合っていくことができるだろう。

 おしまゐ

本日紹介した本

脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議

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