本を熱いうちに読む

厚みのある本は苦手

生き方はバランスの問題‐『となりの女神』‐を読んで

 

本日の一冊は「となりの女神

 124ページと薄い本ですが2段組み。無人島に連れてこられた二人の若者。清掃作業員として雇われたが無人島に人間は入ってはいけないようで、猿と山犬と呼ばれる。そして無人島にいたのは生き神様の少女とそれに使える女の二人。宗教上の理由でそこに住む二人と猿と山犬の4人の登場人物と無人島という場所がシンプルで情報量が少なく読みやすい一冊。猿と山犬は、今いる世界から少し離れてみたいという想いでこの無人島の仕事に来ていて、今いる世界とこの無人島の世界を比較して生きるということについて考えたりしている。

深刻にはなるな

 山犬はお笑い芸人だそうで、猿のネガティブかつ心配性な様子を見て笑ってろとアドバイスをする。

「いつでもへらへら笑ってろ」山犬が教えを説くようにつぶやいた。「人間、深刻になっちゃお終いだ。深刻になって行き詰った時、俺たちは間違いを犯す。理性と論理がぶっ壊れて、感情が上回るんだな。捨て鉢になる。ふざけてるくらいがちょうどいいんだよ」「‥‥そうかもしれません」

 深刻になると理性と論理より感情が先にきてしまう。冷静になって考えればわかることが深刻な時は感情が最優先されて間違いを犯してしまう。山犬はこう言っていますが過去に間違いを犯したような発言をしています。深刻になっていたのは猿ではなくて山犬なのかもしれません。深刻になった猿を見て自分と同じような過ちをしてほしくないという意味を込めてここで教えを説いているのかも。深刻な時ほど笑ってリラックスできるといいんだけどな。

外の世界

 無人島に住む生き神様の夕星様はまだ少女ともいえる年齢で、無人島に住んでいることに対して本当にそれでいいのかと猿は考えます。

「外には、ここにはない楽しいことがいっぱいある。夕星はそのことを知ってるのか」

「外には、ここにはない苦しいことがたくさんあります。おそらく夕星様はそのことも知りません」

どちらが幸せなのか、と僕は瞬時に考えたが、答えは出なかった。

  楽しいことも苦しいこともひっくるめての外の世界。苦しみがあるからこそ楽しさが分かるのだろうし、楽しさがあるから苦しみを感じることができる。どちらが幸せなのか考える必要もないと感じたけれど、この無人島に暮らす神様とその使いの二人は、無人島でも楽しく生きているという事実があって、それを無理やり外の世界から来た人が変えてしまうのは違うのだろうな。楽しいことだけを知ることができればよいのだけど、そんなこと無理なわけで、楽しさを苦しみも味わって生きていかなきゃいけないということを改めて感じる文章です。

バランス

 本書を読んで一番心に残ったのが「バランス」という言葉。バランスは均衡、つりあいの意味を持つ言葉ですが、山犬は猿の秘密を聞いてしまったから、自身の秘密も話します。猿はどうして秘密を自分に話したのかと聞くと、バランスの問題だと答えます。

「猿の秘密を聞いちまったからな」山犬が自分の鼻先を触る。「話したくもねえことを、強引に訊いた。俺も何か告白しねえとフェアじゃねえだろ。バランスの問題だ」

「バランス、ですか」

「俺たちはいつでもどこでもバランスを重視してる」山犬が言い切った。「バランスって言葉が別の言葉になり代わっていろんなところで使われてるだろ」

「‥‥使われてます、か」

「たとえば、市場経済だ。需要と供給の関係が一致して、均衡価格が産まれる。まさにバランス」

(中略)

「ほかにもあるぞ。仕事とプライベートの割合調整はハッピーバランスなんて言われてる。幸福だよ、幸福。食事にしたって、栄養バランスは健康に繋がる。精神と肉体の均衡は、健全。芸術や容姿に関していえば、均整。色彩は、調和。生活環境や自然環境も、矛盾なく衝突なくまとまってりゃ俺たちは心地よく感じる。」

 このほかにも、歩行もバランスだし、収支と貸借のつり合いもバランス、平等もまたバランスで成り立っていて、多くのことがバランスで成り立っていると気づかされます。とすると今の日本のバランスは・・・と考えると少し不安になりますが、そんな大きな規模ではなく自分自身が今いる環境のバランスを考えてみても、不安定だなと思います。このバランスをうまく調整することが生きていくためには必要なことなんでしょう。この本もまたバランスがうまくとれているからこそ読みやすく楽しんで読めるわけで、バランスは人を幸せにするためのシステムと思われ。

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 人はたくさんのシーソーを持っていて、それをうまく水平にするために頑張っている。少しの偏りなら少しの力で水平に戻せるけれど、偏りが強いと水平にするための力がそれなりに必要になります。そうして力を振り絞っている間に、また別のところが偏り始めてしまったりして、一度の大きな偏りを一人で戻すのは困難でしょう。だからこそ、人は人との関係性でバランスを保っているのに、今や人と人との関係性は薄れていくばかりで、一人一人が自分の力でバランスを保つ時代になってきているのは、一人で生きていける人にとってはいいことかもしれませんが、それが難しい人には大変な問題で、どうにかならないかなと思うのでした。

 おしまゐ。

本日紹介した本

となりの女神 (novella*1200)

となりの女神 (novella*1200)