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本を熱いうちに読む

厚みのある本は苦手

書き出しがすべて 『挫折を経て、猫は丸くなった。』

読書

本日の一冊は「挫折を経て、猫は丸くなった。: 書き出し小説名作集

 

  アメトーークの読書芸人でも紹介されていた一冊。ネットサイト「デイリーポータルZ」にて募集された作品を厳選してまとめたもので、自由部門とテーマがある規定部門がある。ここでは、気に入った書き出しを紹介する。

自由部門

ヒロシの投げた紙飛行機でグングン高く上り、結果、勢いづいたかたちで組事務所に落ちていった。 

 このあとヒロシはどうなったのか非常に気になる。紙飛行機を飛ばしているヒロシは小学生だろうか。小学生と組事務所。ドタバタコメディ作品になりそうな予感。この紙飛行機を一枚の紙に戻したらそこには「バカ」と書いてあったらなお面白そう。

GIF画像の街は無音の爆発を繰り返している。

 パソコンの前に座ってひたすら繰り返されるGIF画像を眺めている一人の男を想像した。ぼーっとしているのかな。このあと本当に爆発音がして非日常が始まりそう。最近はGIF画像見かけないけれど、なかなか面白い作品がたくさんあるんだよな。

空き巣に入ったら鍋が弱火にかかりっぱなしだったのだが、意図的かもしれないので俺は見守るしかない。

 最初はなにかの罠かなと思ったけれど、ホラーハウスみたいな感じで入ったはいいけど出られなくなり不可思議な現象が家で巻き起こるような続きもありかな。もしくはその家の住人は誰かに殺されていて鍋が弱火のままかもしれない。妄想がはかどる一文だ。

カバンがずっしり重いから、忘れ物はないはずだった。 

 あるあるな体験で、この人はいったい何を忘れたのだろう。重いからこそ目薬や鍵などの軽いものを忘れているかもしれないな。私の場合はよく目薬を忘れる。

 

規定部門

上の空で聞き返したら十人の話を聞いていたことになっていた。

 今までの作品は自由部門でしたがこの書き出しはテーマ「歴史人物」に沿ったものとなっており、聖徳太子についての書き出しだろう。うまい一文だなと思う反面、続きが思い浮かばない。この一文で物語が完成しているような印象。

「ほんと、あなたってモノをなくす天才ね」そう言って彼女は二枚目の離婚届を差し出した。 

  この書き出しのテーマは「天才」。この本の中で抜群の完成度の書き出しで、熟年離婚だろうか。長年付き添ってきた妻は夫のことをわかっていて、奥さんの「ほんと仕方のない男ね」という微笑と夫の別れなければならないのかという苦痛の表情を思い浮かべてしまう。この二人の間にもう愛はない。この書き出しも一文で物語が完成している。書き出しはその続きが気になる一文と、一文で物語を完結させてしまうスタイルがあるようで、私としては続きを妄想してしまいたくなるような書き出しが好きなのだけれど、この一文は結婚してから離婚するまでの長い年月を感じることができて、続きという名の未来ではなく過去を感じることができるよい書き出しだ。

おわりに

 本書の解説そしておわりにには、少しだけ書き出しの解説が載っていて、その解説を読むのもまた面白く、もう少しこのような解説つきがあってもよかった。書き出しを読むだけでも楽しめし、きっと読者一人一人が書き出しを読んでいろいろなことを感じてほしいと思っている意図があるのだけれど、解説もまた、なるほどこういう考え方があるのかと思って楽しめる。続編が出ればまた読みたい。

 おしまゐ。